林:新聞の連載漫画は純文学という感じで、世俗的な戦いから離れて、静かに筆を滑らせている大家という感じですよね。

しりあがり:アハハハ。純文学っていうより、漫画の4コマは川柳に似ているかもしれないですね。純文学みたいに深いものを表現してるわけでもなくて、ちょっとだけ気が利いてるみたいな。

林:3.11のあとには、作品で3.11に対するお考えを表現してらっしゃいますけど、シュールというか、川柳というより純文学じゃないですかね。蓮の花に乗って昇華していく表現方法とか、あそこまで哲学的、宗教的なものが入ったコミックって、見たことがなかったですよ。

しりあがり:ありがとうございます。漫画というメディアには可能性がすごくあるなと若いころから思っていたんです。この世の中には漫画になってないものが山ほどあって、人が描かないものを次から次に漫画にして描こうと思ってたんですね。現実にはなかなかそうもいかないんですけど、機会があれば人が描かないようなものをこれからも描きたいです。ただ、売れるかどうかは別問題で(笑)。

林:何百万部も売れるのって、スポーツものとかラブコメとかですよね。

しりあがり:やっぱり売れる漫画は読むとおもしろいですね。悔しいくらいおもしろい。

しりあがり寿(しりあがり・ことぶき)/1958年、静岡市生まれ。81年、多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、キリンビールに入社。パッケージデザイン、広告宣伝などを担当。85年、単行本『エレキな春』で漫画家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグ漫画家として注目を浴びる。新聞の風刺4コマ漫画から長編ストーリー漫画、アンダーグラウンド漫画など、さまざまなジャンルで活動を続ける。近年は映像、アートなど漫画以外の多方面に創作の幅を広げている。2014年、紫綬褒章受章。

>>【後編:菅首相の似顔絵に苦戦? しりあがり寿「いろんな要素が顔の中心に詰まってる」】へ続く

(構成/本誌・松岡かすみ、編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年10月9日号より抜粋