清武さん自身は2011年に会長のコンプライアンス違反を訴えたことから球団代表を解任され、その後も裁判で大きなストレスにさらされた。苦しいときは枕をベランダに向けて寝たという。ベランダの溝に雨水が流れていく様子を思い浮かべ、その川に憂いを載せた木の葉を流して忘れるようにした。

「絶えず流れていく人生の川みたいなもの。僕は新聞記者、球団経営、今はノンフィクション作家という三つ目の人生を生きているけど、いつも何とかなってきた。出向してがっかりしている人も何とかなるはずです」

 球団を離れてからはノンフィクション作家として、経営破綻した山一證券に最後まで残った社員、外務省機密費流用事件を追う刑事などを取材してきた。トップランナーよりも後ろの列にいる人を書きたいという。

「自分から手を挙げない人、僕が活字にしなければ知られずに埋もれていくかもしれない人を探すのが喜びです。その人を知って記録した満足感がある。作家にできるのはそれぐらいじゃないの」

 そう話す表情は晴れ晴れとしている。

「反骨心は自由につながる。僕は大事なときに、それはおかしいと言える人が好き。棺桶に片足を突っ込んだとき、しまったな、と思うような生き方はしたくないんです」

(仲宇佐ゆり)

<著者プロフィル>
清武英利(きよたけ・ひでとし)/ノンフィクション作家。1950年、宮崎県生まれ。75年、読売新聞社入社。2004年、読売巨人軍球団代表。11年に解任され係争に。14年に『しんがり 山一證券 最後の12人』で講談社ノンフィクション賞受賞。

週刊朝日  2020年10月2日号