26歳にして女優のキャリアは17年。子役時代から数多くのドラマや映画に出演している伊藤沙莉さん。「ひよっこ」のオーディション裏話やブレイク後の変化とは。
前編「伊藤沙莉の“デビューあるある”とマネジャーに嘘をついた過去」より続く
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経験を積んでいくうちに、中学生のときにあれほど嫌いだったオーディションも、だんだん好きになってきた。
「何度やっても慣れることはないですし、オーディションの前は『うまくいくかな』と緊張しますし、終わってからも、『合格するかな』とか。気を抜ける瞬間がないので、ある意味トラウマでもあるんですけど(笑)。でも、大人になってから受けるオーディションは、ワークショップ的な要素があるものも多くて、新しい演出のやり方に出合えることが多いんです。だから短い時間でも勉強になって、純粋に楽しめます」
彼女の名前を一躍全国区まで広めることになったのは、17年の連続テレビ小説「ひよっこ」だが、その“米屋の米子”役もオーディションで勝ち取っている。
「最初、マネジャーさんには『主人公の親友役を受けて』と言われていたんです。ただ、ちょうどその頃、ドラマで不良の役を演じていた関係で髪がオレンジで(笑)。オーディション時の親友は、『深窓の令嬢』みたいな設定だったので、見た目からして全然ふさわしくなかったんですが、かえってそれをプロデューサーさんがおもしろがってくれて」
彼女が演じた米子は、有村架純さん演じる主人公・みね子の幼なじみ・三男の、奉公先である米屋の一人娘である。三男のことを好きになり、果敢にアタックしていく姿がコミカルで健気で、鮮烈な印象を残した。
「11歳のときに『女王の教室』というドラマに出たあと、道を歩いていて声をかけられるようになったんですが、『ひよっこ』はそのときの比ではなかったです。特に、私の母や祖父母の世代の方に、気さくに、『お、米子!』とか『三男元気か?』と声をかけられたり(笑)」
朝ドラ以来、仕事のオファーは俄然増えたが、制作側の期待に応えようとして、勝手にプレッシャーを感じてしまうことがあるらしい。
「『求められていることだけをやっていればいいの?』とか、今のほうが一つの役柄と向き合うときの葛藤は増えました。昔のほうが自由に振る舞えていたと思います。でも、いいんです。人生においては、なるべくたくさんの壁にぶち当たりたいと思っているので(笑)」
25日に公開される連作長編映画「蒲田前奏曲」には、20代の悩める女性たちが多数登場する。伊藤さんの演じる帆奈は、外資系企業に勤めるキャリアウーマン。女友達の中で、ズバズバと発言する強気な女性の役だ。
「英語ができる設定なので、ちょっとした英語のセリフを何度も何度も直されました(笑)。集まった仲間と温泉に行くときに、『ホットスプリング!』って叫ぶんですが、その発音がイマイチだったり、言い方がわざとらしかったりすると、キャリアウーマンとしてのリアリティーがなくなっちゃうじゃないですか。たった一つのセリフにあんなに悪戦苦闘したのは初めてです(笑)。あとは、笑いを堪えるところで、『舌を噛んでみて』と言われてそのとおりにやってみたのですが、試写を見たら、すごく自然に見えた。女性監督ならではの細かいリアリティーがちりばめられていて、“丁寧に映画を作っていたんだなぁ”って」
この春、一人暮らしを始めた。それまでは兄と2人暮らしだったのだが、一人暮らしを始めた途端、新型コロナウイルスによって、家に籠もる生活を余儀なくされた。
「常に話し相手が欲しいタイプなので、人恋しくなると散歩がてら事務所までてくてく歩いていって、誰かを捕まえては延々しゃべっています。夜になって『いい加減帰りなさい!』と叱られてから渋々帰る。10代の頃からずっとそんな感じ(笑)」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2020年10月2日号より抜粋