彼女は彼女に出来る最善の方法を取ったのだ。人々にメッセージを送る行動を起こせる存在は少ない。彼女がその責任を果たした。

 黙っている方がラクなのだ。テニスの四大大会でも政治的行動は禁止されることが多いが、今回は自由だったという。大坂選手のアピールに今度は私たちが返す番だ。彼女の問いかけを一人一人が胸に手を置いて考えたい。

 そして自分に出来る行動はないか。何をなすべきなのか。

 私は大学時代の数少ない友人と、今出来ることは何かを時々話す。

 政治や社会への疑問、そして私たちの意思を伝えるための抗議、それぞれが自分の場でやり続けると約束する。例えば、私なら物を書く場で表明する。友人は今も真実を知ろうと勉強を続け必要とされるデモに出かける。自分に出来ることをする。それが大坂選手への私の答えである。

週刊朝日  2020年10月2日号

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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