林:柔道は今、フランスがすごく盛んですよね。

井上:競技人口が60万人以上と言われてますね。日本は14万人ぐらいなんです。フランスが成功している一つの理由は、柔道の価値を競技性だけに求めないところにあると思います。今後日本の柔道界においても、強さを求めていくことも重要ですけど、それ以外のところにも価値を見いだしていくことが必要だと思いますね。

林:リオが終わったすぐあとに監督が出された『改革』という本の中で、「柔道が“JUDO”になりつつある」とおっしゃってますね。私たちがテレビで見てても、外国の選手は「こんなのあり?」と思うようなことをやりますけど、柔道が世界の“JUDO”になるにつれて形を変えているわけで、それについて、監督は非常にフレキシブルにお考えになっているという気がします。

井上:柔道が国際化されてきた中では、そういうものにも対応することが重要だと思います。ただし、われわれもそういう新しい“JUDO”を求めていくのかというと、そうではなく、われわれはいい意味での王道をきわめていくことで柔道界の発展に寄与していくべきではないかと強く思っています。

林:はい。

井上:ただ、それだけで世界の“JUDO”に勝てるかというと、必ずしもそうではないので、世界の“JUDO”に勝っていくためには、世界の“JUDO”を理解し分析し、対策をしっかり練っていくことが大きなポイントで、「“JUDO”は柔道じゃないよ」と言ったって何も始まらないですからね。個人的には、シンプルに言えば「一本」の追求だと思ってます。

林:たとえばロシアの選手とかモンゴルの選手って、日本の柔道の底に流れる品格だとか相手に対する尊敬だとかは、ちゃんと理解してるんですか。

井上:もちろん海外のコーチ、選手は日本に対して敬意を持ってくださっているし、日本のコーチ、選手も海外のコーチ、選手に対しての尊敬の念を持っています。

林:その国にはその国の武道があって、それを勝手に柔道に取り入れられちゃうと困りますよね。

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