林:私はあの中で読んだことがある本一冊あったかな、という感じで、『国富論』なんかさわったこともないと思います。

出口:30冊の中には恋愛小説も入れました。近松の『冥途の飛脚』、あれは素晴らしい恋愛小説ですね。

林:歌舞伎で見るたびに泣いてしまいます。先生は「友達をつくりなさい」ともおっしゃってますけど、皆さん年をとってくるにつれて怒りっぽくなったりイヤな人になってきて、年とってからいい友達には、なかなか出会えないように思うんです。

出口:友達をつくるのは簡単で、僕は今、一緒にごはん食べたり飲んだりしている人は、半分以上が初対面ですよ。

林:どこで知り合うんですか。

出口:だいたいSNSです。

林:え~っ! SNSってコワくないですか。

出口:例えば、僕の本を読んだ人が「感激しました」ってメールを送ってくれるので、「よかったら別府に遊びに来てください」と返事を書くと、「友達を連れていきます」とかいって本当に来られるんです。「せっかく来られたので、ごはん食べましょう」という流れになるんですね。

林:でも先生、ちょっとおっくうじゃないですか、ファンの人とごはんを食べるのって。

出口:ファンといっても初対面ですから、おもしろい人かもしれないし、一期一会じゃないですか。

林:だけど、先生を利用しようと思ってるかもしれないし。私なんかそういうところ用心深いんで。

出口:変な人は何となく話せばわかるじゃないですか。そういう人はごはんに誘わないです。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

出口治明(でぐち・はるあき)/1948年、三重県生まれ。京都大学卒業後、72年日本生命入社。金融制度改革や保険業法の改正に尽力。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、2006年に退社。08年に「ライフネット生命」を開業。12年上場。10年間、社長、会長を務める。18年1月から現職。歴史に造詣が深く、「メシ・風呂・寝る」から「人・本・旅」への転換を提唱。リーダー論、ビジネス論、歴史などについての著書多数。近著に『還暦からの底力』(講談社)、『「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには』(KADOKAWA)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)など

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週刊朝日  2020年9月25日号より抜粋