労働審判は民事裁判よりも早めに結審しやすい。会社側が裁判で負けると、判決が確定する期日までは賃金を払い続けなければならず、金銭解決が進むためだという。

「交渉にあたっては証拠となる資料が重要。就業規則はしっかりとコピーしておくこと。解雇された場合、照らし合わせることで解雇の根拠がわかる。経営者に詰められ、退職を迫られたという場合も、その音声記録があると重要な証拠となる。退職勧奨を受けたら、速やかに弁護士に相談してほしい」(同)

■ユニオンへ相談 内部告発も支援

 会社の組合組織に守られていない働き手の“駆け込み寺”として、個人が加入できる様々な「ユニオン」が全国各地にある。ユニオンが前面に立って、会社に対して解雇の不当を訴えたり、職場改善を求めたりしてくれる。

 今年2月に立ち上がったみんなのユニオンもその一つだ。新型コロナの影響もあり、基本的なサービスはすべてオンラインでやりとりできるのが特徴で、加入や脱退の手続きも簡単だという。現在、契約社員や失業中の人をはじめ、いろんな労働者930人超が加入し、サービスを利用する。

 みんなのユニオンは独自の「公益通報サービス」で、会社の法律違反行為を内部告発する人の支援もしている。経営者などからハラスメントを受けたり、不正を目にしたりした際に通報すれば、弁護士がその違法性を判断。会社側に疑わしい点があれば、事実確認や改善を求める「通知書」を、相談者の名前を伏せてユニオンが送付するものだ。

 先が見えないコロナ禍での、いきなりの便乗解雇……。私たちの働き方はどう変化していくのだろうか。

 労働問題に詳しい楠木新さんはこう話す。

「そもそも新型コロナ感染が拡大する以前から『日本型雇用』を変えていこうという動きがあり、利益が上がっている有名企業の早期退職募集も目立ち始めていた。コロナのもとで経営環境が厳しくなり、リモートワークなども拡大する中で、大企業を中心とした職務などを明確に定めた『ジョブ型雇用』への切り替えの流れがさらに加速するかもしれない」

 こうした時だからこそ、若年層やミドル層が新たな働き方を模索すべきだと強調する。

「今までの会社に依存する働き方から脱却する必要がある。例えば、社員は雇用契約ではなく、個人事業主として会社と業務委託契約をするというケースも徐々に増えていくだろう。これからは会社にぶら下がっている社員は、より厳しい立場に置かれることになる」

 自分には仕事や職場で活用できる、どんな“ポータブルスキル”があるのか。日々見つめ直しながら進化させることが、突然の解雇への唯一の対処法といえるかもしれない。(野田太郎)

週刊朝日  2020年9月25日号