「?」。どういうことだ? 「見るな」と言ってたアレはコレか? どうやら『ポートピア連続殺人事件』の犯人はヤス、という人らしい……。とりあえずスイッチが入り、ゲームが始まった。私は兵庫県警の刑事という設定のようだ。殺人事件が起こり、その捜査に取り掛かる。後輩のパートナーとのバディものか。パートナーのそいつがいきなりこんなことを言いました。

「ヤスとよんでください」……こいつ、いきなり自白(ヤスにそのつもりはないのだが)かよ……。

 完全に疑いの目で見られているのも気づかずに、ヤスは健気に私の手足となって働いてくれます。

 あまりの有能さに「ホントは違うんじゃないか?」とヤスを信じてみたり、「いや、やっぱりこいつだろ?」と私の心も揺れ動きます。でも、なんやかんやあって結局『犯人はヤス』でした。

 でもなんなんでしょう……冒頭から犯人を知らされてトライした『謎解き』ゲームは思いの外、面白かった。人を疑いつつ、しかし疑う自分をまた疑いつつ……の日々。『ポートピア連続殺人事件』にはいろんなことを教わった気がします。皆さん、『犯人はヤス』ですよ。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります

週刊朝日  2020年9月18日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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