朝日新聞元特別編集委員の星浩さん(C)朝日新聞社
朝日新聞元特別編集委員の星浩さん(C)朝日新聞社

 官房長官の連続在任期間で歴代1位の菅氏は首相になっても活躍できるのか。著書『官房長官 側近の政治学』(朝日選書)で菅氏にインタビューした元朝日新聞特別編集委員の星浩氏に聞いた。 

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 官房長官という仕事は地震やミサイルなどへの危機管理を含め、24時間緊張感を持って備えなければならない激務。菅氏が7年8カ月も務められたのは、とにかく政治が好きだったからでしょう。

 特に情報収集が「趣味」です。菅氏は酒を飲みませんが、夜は「2階建て」といって、18時から21時に一件、21時から23時もう一件と連続で会食する。朝食も人と会って食べる。財界人、学者など、あらゆる人と会っていました。

 官房長官の大きな役割は役所など関係各所の調整です。国会対策でも対与党、対野党など、あらゆる調整をしなければいけない。菅氏はそういった調整能力に長けていました。

 一方で、安倍晋三首相の「美しい国」のような大きな理念を掲げるタイプではない。菅氏が取り組んできた仕事を振り返っても、携帯電話の利用料値下げや、インバウンド需要を喚起するための入国規制の緩和など、個別具体的で実務型の課題が多い。スケールが小さい、とも言えます。官房長官として人事権を握って霞が関の官僚を統制しましたが、権力で抑え込む体質が強まっている点が気になります。
 
 首相になっても基本は変わらないでしょうが、自分の主義主張をどこまで出せるかに注目しています。彼が師事した梶山静六はハト派で知られましたし、その影響か、一度は宏池会に入っている。一皮むくとハト派なのに、安倍首相との対立を抑えてきた。菅氏がハト派色を出したら党内の一部は反発するでしょうが、世の中少し変わるかもしれません。

 政権が倒れた際に官房長官がそのまま首相となったケースはほとんどありません。普通は連帯責任で官房長官も倒れます。今回は特殊事情ということかもしれませんが、ナローパス(細い道)でした。うまく生き延びたな、という印象です。
  
 長期政権となるかは、解散をいつやるかと一体の問題です。年内説もありますが、来年9月にはフルスペックの総裁選があり、そこで石破茂氏に勝たねばならない。ベストは来春に解散して『菅氏のおかげで勝利した』というかたちで総裁選を回避することでしょうが、解散して負ければ政権は終わり。コロナ対策も経済も外交も、課題は山積みです。薄氷の上を歩く政権運営になるでしょう。

(構成・本誌編集部)

※週刊朝日9月18日号より加筆・抜粋