八嶋さんの盟友である松村武さん(劇団カムカムミニキーナ主宰)が、「猿女(さるめ)のリレー」という芝居を上演したのは、緊急事態宣言が明けて約1カ月後のことだった。

「松村は中学のときの同級生なんですが、『猿女~』では、劇団を続ける意味みたいなものを作品に昇華していた。真面目になる瞬間もあったけど、ユーモアとかで誤魔化さず、照れずに『今の世の中こうだけど僕らはこう思っている』みたいなことを表現していた。あの舞台は、コロナがあったから生まれたものだと思います」

 自粛期間が明けてからというもの、舞台には前以上に積極的に足を運ぶようになった。観客として劇場にいると、様々な発見があるからだ。

「このご時世に、わざわざ劇場に足を運んでくださるお客様は、みなさんすごく真面目なんです。ちゃんとマスクをして、私語を慎み、個人情報も紙に書いて置いていく。そこまでして足を運んでくださるということは、つまり、お客さんがそれだけ舞台を欲しているということ。演劇は、客席にお客さんが入って成立すると大昔から言われていますが、本当にその通りだなと思いますね。お客さんが半分になってしまうので、ビジネスとしては多少ピンチかもしれないけど、前後左右にお客さんがいないとすごく見やすいし、お芝居に集中できる。客席が賑わっていることも素敵なことだけど、半分の人数になっても、お客さんが集中して芝居に関わろうとしてくださるので、全体的な熱量は変わらない感じがして、それはそれで悪くなかった」

 コロナとの闘いは長期戦になることを覚悟しているが、熱意あるお客さんとともに舞台を作っていけるのは有意義なことではないか──。しんどい状況の中で、八嶋さんは今、withコロナ時代の舞台のあり方を、そんなふうにポジティブに捉えている。(菊地陽子 構成/長沢明)

>>【後編/夫婦はしゃべるから別れる? 八嶋智人が浮気を探る探偵役で舞台に】へ続く

週刊朝日  2020年9月18日号より抜粋