「物心ついたときから父親の体にはがんの手術の傷痕がザックリ入っていたし、人は死ぬときは死ぬと思っていました。年齢順じゃないのが悲しいんですけど、同じ時代に生まれて同じ時間と空気を共有しているって素敵なことだと思うんです」

 どんな人の死も生きることを考えさせるとタツオさんは言う。死に瀕した人が本当に喜ぶのはどんなことなのか、48歳で亡くなった父親は幼い子供たちを残して無念だったのではないか。死がなければ誰かのことをそこまで突き詰めて考えなかったかもしれない。

 今は死にゆくプロセスが見えにくく、生と死の考え方がゆるやかに変わってきたと感じている。

「死に鈍感になると生にも鈍感になり、人の痛みにも鈍感になる。亡くなった人のことを自分の中でちゃんと噛み締めておかないと、今生きていることも噛み締められない気がします。この本を読みながら誰かのことを思い出していただければすごくうれしい」

(仲宇佐ゆり)

<プロフィル>
サンキュータツオ/1976年、東京都生まれ。学者芸人。早稲田大学大学院博士課程修了。漫才コンビ「米粒写経」として活動しつつ、一橋大学、早稲田大学などで非常勤講師を務める。著書に『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』『ヘンな論文』など。

週刊朝日  2020年9月11日号