五木:ワクチンにしても安価で大量にそれができればいいんですけど、がんの特効薬みたいにえらく高価なものが出てきたりしかねない。国民的意識が強くなり、どこかで国家の強権を望むようになってきた。こういう時は政治がもっとはっきり決断して欲しい、という意識。そうした翼賛的な意識が出ているのが気がかりです。Go Toキャンペーンにしても、動けというのか、じっとしておれというのかはっきりしてくれと。この「お上がはっきりしてくれ」という民意が、すごく危険な気がします。

姜:格差が見えてきたからこそ翼賛という一つの想像上の共同体ができないとまとまらない、ということですね。日本国民は皆同じ、という一つの虚構が必要なわけです。ただ実際は中小零細の飲食関係、劇場であれば美術や音響照明、といったあまり目立たない仕事をしている人の悲鳴が方々から聞こえてきます。

■見えない感染症 非常に不安呼ぶ

五木:僕は平壌(ピョンヤン)で終戦を迎え、命からがら38度線を越えて難民収容所のようなところに収容されました。そこで発疹チフスのクラスターが起きたんですが、その時は、感染させるものが見えた。シラミです。だから、肌着からシラミを取ってプチプチと爪でつぶしていって、こいつがうつすのかというのが確認できた。ペストはネズミからくるノミですよね。これも感染させるものが見える。

 ところが、コロナウイルスは見えない。見えないものが襲ってくるという不安感というのが生理的物理的なものを超えて、人間に大きな影響を与えているような感じがするんですが。

姜:僕自身も勤め先の九州や講演などで各地と行き来しているうちに、ふと罹患(りかん)したんじゃないか、と不安にかられました。前にお世話になった病院に頼んでPCR検査を受けたんです。

 それと最近ショッキングだったのは、海外の世論調査なのでどこまで正しいのかわからないところもありますが、日本の場合は、特に罹患した人に責任がある、と受け止められる傾向があるそうですね。

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