五木寛之氏(右)と姜尚中氏(左) (撮影/戸澤裕司)
五木寛之氏(右)と姜尚中氏(左) (撮影/戸澤裕司)
姜尚中氏(左)、五木寛之氏 (撮影/戸澤裕司)
姜尚中氏(左)、五木寛之氏 (撮影/戸澤裕司)

 コロナ禍の時代をどう生きるか。作家・五木寛之(87)と政治学者・姜尚中(70)が語り合った。朝鮮半島からの引き揚げ者として、在日コリアン2世として、ままならぬ道を切り開いてきた二人。未曽有の世相の闇に目を凝らし、見えてきたものは?

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五木:不思議で仕方がないんですけど、新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)がどうしてこれだけ大きな影響を及ぼしているんだろうか。そこがどうもわからないんですよ。というのは、スペイン風邪と言われている1918年ごろの流行ですけど、日本国内の死者だけで39万ぐらいから42万ぐらいという説があります。コロナの人的被害と比べたら比較にならないくらいの差があるわけですね。にもかかわらず、なぜコロナでこれほどの社会的影響が世界的に起こっているのか。

姜:たしかに五木さんの少年時代、死と生が同居しているような状況だった第2次世界大戦中でさえ、映画館や劇場、寄席という今で言うエンタメを、人々が楽しめなくなることはほぼなかったでしょう。それなのに、コロナ禍では「ロックダウン」という聞いたことのないような現象が起きました。それもアジアや欧米、遠いアフリカまで同じコロナが暗い影を落としています。

五木:コロナ禍の中に何か謎があるような気がするんだよね。大きなパラダイムの大変換。そういうものが引き起こされる理由はなんだろうと、考え続けているんです。

 格差の問題があらわになりましたね。「ステイホーム」と言われてもうちにいられないエッセンシャル・ワーカーがいっぱいいるじゃないですか。そういうところに感染が広がり、かたや郊外へ優雅に逃避できるような人たちは逃れられるというような。変な話だけど、国会議員で陽性という話はあまり聞いたことがない。丈夫だとかそういう問題だけじゃなくて、何かあるんじゃないかという気がして仕方ないんだけど。

姜:このままではワクチンがもし万能でなくても、少し効きそうだと言った時にね、格差社会のこれまでオブラートに包まれていた、ある種のヒューマニズムみたいなものが剥がされることが起きかねないですね。

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