A:半沢は経営不振に陥った融資先をどうすれば立て直せるか、どう売り上げを伸ばせるか、いいところを見つけようとする。でも実際、銀行員に企業を再生したり新しいビジネスを生み出したりする能力はほとんどないと思います。半沢のように再建させても、行内できちんとした評価を受けるとは限らない。

B:銀行員は日々忙しく、いろんなお客さんの対応や事務作業に追われている。半沢のように、一つの案件にたっぷり時間をかけていられない。だから、半沢の仕事っておもしろそうですよね。

C:ほかにもドラマのような設定はないだろうというのはある。例えば、役員が私的に不正流用するような話。そもそも銀行の役員は坊ちゃんばかりなので、貧乏人でない。銀座の女性に交際費を落としたという話はあるものの、私的流用は事実に反していると思う。

B:居酒屋の設定、あれはおかしい。料亭風な小料理屋で同期らで飲んでいるが、我々はせいぜい、ギョーザ屋やチェーンの居酒屋といった安い店を使う。あれが銀行員の一般像だと思われたら困る。あんな所では飲んでいない。

C:役員から、料亭ではないが割烹(かっぽう)のような料理屋に誘われることはあった。常務とか専務とかから。

A:銀行だけではありませんが、バブル崩壊前後までは会社専用のラウンジやお抱えのクラブもありましたよね。役員と仲良くなったママの親類が入社したことも……。

C:ドラマのように、ICレコーダーを隠して録音することはない。その人物の信用問題にかかわるし、行員同士なんてあり得ない。“ハシゴを外す”上司と会う時は、1人ではなく2人で行った。本人の前で「ちょっと待ってください」と手帳に書き、「こうですよね」と確認する。メモには残すが、隠し録音はしない。

B:それにしても、(上戸彩演じる)半沢の妻のように、あんなにも献身的な奥さんが家にいたら、もっと仕事を頑張ります。

A:かつて社内結婚が多かったのは、やはり奥さんも社内の事情を知っていたほうが都合がよかったから。給料はいいし、銀行員の妻であることにプライドを持ってくれる女性も多かった。今は理解者が減っているかもしれません。

C:家族の理解がないと、休日勤務などが難しくなる。銀行員の奥さんに銀行周辺の人がいたりして理解があると、出世もしやすかった。

A:銀行の仕事は、物事が正しいかどうかではなく、規制に守られた“ムラの論理”で進められる。経済や社会の実態とはズレが生じ、つじつま合わせばかりに神経をすり減らしている。退職後にうつになる銀行員は多い。半沢のように、正しいことをすれば結果的にもうかるという理解が広がればいい。

B:とはいえ、ドラマは銀行員にとってリアルな場面も多い。日曜夜を楽しみにしている人は多いと思うが、銀行員は夕方からゆううつになり、現実に引き戻されてしまう。翌月曜の会議があるので、「ああ、営業成績が上がっていない……」などと考えてしまう。「サザエさん症候群」のバンカー版のような感じ。吐きそうな気分になるので、ドラマはなるべく見ないようにしています。日曜は「ちびまる子ちゃん」と「サザエさん」を見たら、寝るようにしている(笑)。

(本誌・池田正史、浅井秀樹、宮崎健)

週刊朝日  2020年9月11日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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