辞任の報道が出た28日、岸田氏は訪問先の新潟で総裁選への立候補の意思について「変わりない」と語った。これに先立って新潟市内のホテルで行われた講演では、「総裁選については私もぜひ挑戦したい」と話していた。

 自民党最大派閥である細田派の議員は言う。

「森喜朗政権以来、小泉純一郎氏、安倍晋三氏が2回、福田康夫氏と、清和会(細田派)が総理総裁を出すことがほとんどだった。安倍政権が7年8カ月続いたこともあるので、さすがに『次はお休み』という意見が多い。それに、次の政権は長期政権の後なので短命に終わるリスクがある。岸田さんを総裁にするというのが基本路線だ」

 ただし、このシナリオにはネックがあった。

 岸田氏は、政治家としては衆院議員の祖父の岸田正記、父の岸田文武に続く3代目に当たる。祖父の代から宏池会に所属する“プリンス”で、党内では軽武装、経済重視のハト派に位置している。それに対し、同じく政治家3代目の安倍首相は、祖父は岸信介、父は安倍晋太郎で、憲法改正を前面に主張するタカ派。同じ3代目でも、スタンスが真逆なのだ。

 岸田氏は、過去に本誌のインタビュー記事でこんなことも語っている。

<宏池会の先輩方は日本国憲法の制定の現場にかかわった方が多いので、宏池会としては現憲法に対する愛着というのはあると思います>(週刊朝日2016年6月24日号)

 憲法改正を政治信条とする保守系議員が集まる細田派が、ハト派で、指導力不足の声もある岸田氏支持でまとまることには疑問が残る。

 岸田氏は25日の講演で、憲法改正について「もし私が政権を担うことになったとしても、しっかり取り組んでいきたい」と発言。細田派の票取り込みのための駆け引きともとれる動きだった。

『内閣官房長官』の著書がある作家の大下英治氏は28日、本誌の取材にこう語った。

「安倍首相のお膝元の清和会は一枚岩ではなく、下村博文選対委員長や稲田朋美幹事長代行、西村康稔経済再生相ら4、5人が総裁選への立候補を考えていた。細田派が岸田支持でまとまらず、そのなかで菅氏が次の総理候補とわかったら、他派閥から一気に菅氏に支援者が集まる可能性がある」

 実際、細田派は31日、菅氏への支持を固めたと報じられ、下村氏や稲田氏も出馬を断念。二階派、麻生派と併せて3つの派閥の支持をとりつけたとされる菅氏が総裁選への流れを大きくリードする展開となっている。

(本誌・西岡千史、上田耕司/今西憲之)

※週刊朝日2020年9月11日号に加筆

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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