「ブエノスアイレスではロビー活動とまでは言わずとも、夜のパーティーにも顔を出して票集めに熱意を持たれていました。森、バッハ両氏との信頼関係も強固で、東京五輪は政治的色合いが強かっただけに、辞任によって政治的パワーは相対的に落ちざるを得ず、3者の関係性が崩れれば大会準備の推進力も弱まるでしょう」

 松瀬氏は開催が確実であれば、辞任の可能性は低かったのではないかとも分析する。

「持病の再発とはいえ、五輪開催を任期中に迎え、自身のレガシーとしたかったはず。世界中が注目する五輪の開催国のトップという地位は代えがたいもので、辞任表明は開催の不透明さと無関係ではないと思います」

 一方で、タッグを組んできた森氏について、谷口氏はこう話す。

「相当憔悴していると聞いています。旗振り役がいなくなれば、開催自体がなくなると考えているのでは」

 谷口氏は続ける。

「IOCの中にも来年の開催は無理だとの見方が出てきています。21年の開催なのに『TOKYO2020』を残しているのは異例中の異例で、少なくとも五輪憲章に特例を設けるなど規定的な裏付けを作って大会を迎えるべきですが、そうした動きが一切なかった。バッハ氏自身が、中止と見ているのではないでしょうか」

 安倍首相が五輪を放り投げたと見られたら、IOCからの心証は悪くなる。谷口氏は言う。

「後任が誰にせよ、リーダーシップをとれるのか。コロナ問題もあり、簡単ではありません」

 来年開催は一層難しくなった。(本誌・秦正理)

週刊朝日  2020年9月11日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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