日本銀行の黒田東彦総裁 (c)朝日新聞社
日本銀行の黒田東彦総裁 (c)朝日新聞社

 安倍晋三首相の辞任報道を受けて、8月28日の金融市場は“動揺”した。日経平均株価は一時、前日比600円超値下がりし、同326円安の2万2882円で取引を終えた。外国為替市場も、ドル円相場は報道後に1ドル=106円台前半まで円高が進んだ。

 株式市場関係者が注目するのは、アベノミクスが続くかどうかだ。

 経済評論家の斎藤満さんは、首相の後任とともに、日本銀行の黒田東彦総裁の去就が焦点だと指摘する。

「黒田総裁は安倍首相とともに『円安・株高』でデフレ脱却をめざすアベノミクスの象徴。異次元緩和で今の世界的な金融緩和のきっかけをつくりました。“異常”とも言える金融政策を続けてきたわけで、安倍首相というハシゴが外れることで辞めるのでは、との見方も出ています。総裁が代わっても金融政策の根幹が変わらなければ影響は限られるでしょうが、方向性が定まるまでは不安要因となります」

 株式アナリストの鈴木一之さんは「アベノミクスの『3本の矢』のうち、金融緩和を除いた2本の矢は、この2年ぐらい効果がなかった。さらなる財政出動や金融緩和は難しく、(経済政策の)現行路線は誰も変えられないだろう」とみる。

 ただし、当面の経済問題は、アベノミクスの継承よりも、新型コロナウイルス対策にならざるを得ない。

 楽天証券経済研究所チーフグローバルストラテジストの香川睦さんは「新型コロナ対策中心の財政出動と、金融緩和の長期化の路線は変わらないだろう」と話す。足元では、米国経済や中国経済といった外部環境は回復基調にある。「政治に不透明感があり、目先の株価動向は重たいだろうが、安倍退陣と関係なく、景気の方向感は年後半にじわじわ良くなっていく」

 このため、11月に控える米大統領選がカギを握りそうだ。トランプ大統領は安倍首相と友好関係にあっただけに、「安倍さんの後継者については外交手腕を含めて不安」(香川さん)な面が多い。東海東京調査センターのチーフグローバルストラテジスト、平川昇二さんも「後任が米大統領と良好な関係を築けるか。第1次政権を含め、安倍首相の任期中は結果的に株高になる傾向がありましたので、株価は当面は弱含むかもしれません」。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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