■「無頼より 大幹部」


「紅の~」脚本・池上金男と舛田監督による、前作と対極にあるアウトローやくざ映画の傑作。とはいえ組織のために殉死する東映の任侠(にんきょう)映画とは一線を画し、渡の「人斬り五郎」は精神的にも肉体的にも追い詰められながら、自分のアイデンティティーのために闘い続ける。そのストイシズムと、どんなに痛めつけられても屈しないタフさは、映画俳優・渡哲也のイメージを決定づけた。その渡を慕う松原智恵子の可憐さ!

■「わが命の唄 艶歌」
 五木寛之の小説『艶歌』を映画化。「艶歌の竜」と呼ばれた伝説のレコード・ディレクター、芦田伸介と、渡の新進ディレクターが、日本人の心を打つ本物の演歌歌手を育てる。音楽業界を舞台にしているが、舛田監督が描く、芦田と渡の師弟関係の緊張感はまるでアクション映画のようでもある。渡の生硬な演技は、かえって若手ディレクターの初々しさを感じさせてくれる。水前寺清子、美川憲一など当時の人気歌手が総出演!

■「無頼 人斬り五郎」
 舛田監督の薫陶を受けた小澤監督が、渡の魅力をさらに引き出したシリーズ第4作。伊部晴美作曲によるシリーズのテーマ曲で「ヤクザの胸は何故に寂しい」と歌う主題歌がカッコいい。歌手・渡哲也の代表曲の一つとなった。敵対する組織の佐藤慶と渡の間に芽生える友情。寡黙だが、言わずもがなでわかり合えるヒーローたち。塩田で展開される壮絶な斬り合いに、渡の身体能力を堪能することができる。

■「新宿アウトロー ぶっ飛ばせ」
 この年、「反逆のメロディー」で初主演した原田芳雄と、「無頼」の寡黙なヒーローの渡、二人のアウトローを70年代青春映画の旗手・藤田敏八が演出。野獣のような肉体を持つ前科者・渡と、金持ちの息子・原田のコンビが、巨悪から麻薬を奪取しようともくろむ。強奪したヘリで二人が去っていくラストは、70年代の若者たちの「ここではないどこかへ」の気分を反映させたアメリカン・ニューシネマのような味わい。

■「野良犬
 黒澤明の名作を、松竹の異端児・森崎東がリメイク。かつて三船敏郎が演じた「拳銃を奪われた刑事」を渡が演じ、芦田伸介の先輩刑事とともに捜査を進めるうちに、渡の拳銃で次々と殺人事件が起こる。オリジナルと違うのは犯人が単独ではなく、返還前の沖縄から就職で上京してきた若者たちの共同正犯であること。焦燥する刑事の孤独と、若者たちの孤独。渡の確かな演技が堪能できる。ぜひDVD化を!

■「仁義の墓場」
 渡哲也、初の東映作品。原作は「無頼」シリーズの藤田五郎。「狂犬」と呼ばれた実在のやくざ・石川力夫の破滅的な生き方を、渡が鬼気迫る演技で見せた。主演にあたって、渡が「仁義なき戦い」(73年)の深作監督を指名。戦後間もなくの東京、組織や仁義に背き、一切の掟を無視して、欲望のままに生きる主人公の狂気。あまりにも壮絶ゆえに、観るものを選ぶが、映画俳優・渡哲也にとって、この異色作は紛れもなく代表作の一つだろう。

週刊朝日  2020年9月4日号