映画の撮影が終わる頃、新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界中が「withコロナ」の生活を模索する中での公開になった。“身近な存在の大切さに気づき、惹かれていく”という映画のテーマは、こういうタイミングだからこそ、誰にとっても自分の物語と重なる。

 実際、竜星さんも、この自粛期間中にあらためて「俳優という仕事に巡り合えた幸福」を実感したのだそう。

「自粛期間中は、『俳優じゃなかったら何をやっていたんだろう?』とか、そういうことを何度も考えました。今までは正直、ずっと、自分が本当に俳優に向いているのか、俳優が天職なのかわからなかった。でも、そのことを考えに考え抜いたら、あるときパッと、『俺にはこれしかないんだ』って思えた。そこから、今まで感じていた心の揺らぎが、パッと消えていきました」

 7月からは、三谷幸喜さん作・演出の舞台「大地」に出演。彼にとって学びの場で修業の場でもある“舞台”で、多くの舞台人に交ざって、彼にしか出せない、妖艶さと人としての狡さや弱さを内包した役を存在感たっぷりに演じていた。

「生まれ変わっても、また俳優をやりたい」と、今は堂々と言える。それは、コロナが彼にもたらした新たな転機だった。

(菊地陽子、構成/長沢明)

週刊朝日  2020年9月4日号より抜粋