記者の目からも、打撃面で特筆すべき活躍をした選手を挙げるのは難しく感じた。それだけ、コロナ禍による部活動の自粛や中止が球児に与えた影響は大きかったのだ。

 大会の様相も、例年とは大きく違った。試合は原則無観客で、内野スタンドに入れたのは保護者らと控え部員のみ。感染拡大防止の観点から大声を出せず、手拍子や拍手による応援が主だった。チャンス時に手拍子のリズムに変化を加えるなど工夫が見られたが、例年なら吹奏楽や大歓声の迫力に後押しされて試合の流れが変わる場面を幾度も見てきただけに、寂しさが募った。全力プレーは例年と変わらずとも、コロナ禍の大会なのだと痛感させられた。

■今季のドラフト 高校生に不利か

 ところで、現在3年生の球児たちの進路はどうなるのか。アピールの場が少なくなったことで秋のドラフト会議で高校生の指名が減少するのではないかとも危惧される。安倍氏はこう指摘する。

「各都道府県が独自大会を開いたとはいえ、スカウトにさまざまな制約がありました。球場に入れる人数に制限があったり入場禁止だったりして、プレーを直接見る機会は少なかった。甲子園での試合数が1試合だけだったこともあり、特に打者は、投手に比べ試合での“露出度”が少ないので、ハンデはあるでしょう」

 それに加え、プロ球団側の事情も今年のドラフト会議に影響してきそうだという。

「コロナ禍で球団はどこも減収で、所属選手の年俸すら方針が固まっていない。ドラフトの方針がまだスカウトまで下りてきていないとも聞いています。今のスカウトは選手を長期間見て、ある程度の確信を持って指名に踏み切る。成長著しい高校生の春からの3カ月がごそっと抜けていれば、確信が持てず指名が見送られる可能性がある。特にドラフト3位以下クラスの選手たちは影響が大きいのでは」(安倍氏)

 もちろん、高校卒業後にプロにいくことが“正解”というわけではない。プロ注目の高橋や中森でさえ進学を検討しているとされ、進路は明言しなかった。異例の夏、球児たちの葛藤はまだ続く。(本誌・秦正理)

週刊朝日  2020年9月4日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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