古市:基本、ずっと省エネで生きてきました。小学校と中学校は家から歩いて3分の公立だし、高校は推薦入学。大学もAO入試で、大学院も面接と論文が中心。人生で受験勉強をしたことが一回もない。苦労したことがないんです。

林:いじめられなかった?

古市:先生と仲が良かったんです。いじめられそうになると先生の権力をうまく使う(笑)。小学校の高学年のころには自分で学級新聞をつくり始めたんです。新聞はクラス内の唯一のメディアじゃないですか。世論を操作できるので、誰も僕に刃向かえなくなる。いかにストレスがない環境をつくるか、みたいなことをずっと考えて生きてきました。

林:古市君はそもそもは学者で、芥川賞候補にも2回なってるから、外を歩いてて「あ、テレビに出ている人でしょ?」とか言われると、ちょっとムッとしたりしませんか。

古市:冷たいイメージのせいか、そもそもあまり話しかけられないんですよ。最近はコロナのおかげで、素っ気ない態度も感染防止のためと言えるのですごく快適です。

林:そうなんだ。あれだけテレビに出てると、いろんな人とのおつき合いもどんどん幅広くなっていって、誕生日会もすごい人数を呼ぶんですってね。

古市:僕、誕生日会は自分がラクだから開いてるんです。正直、3分間だけ会えばいい人っているじゃないですか。3分間会えばよくて、会食するまでもない人をいっぺんに呼べるんで、ラクなんですよ。

林:そんな人、呼ばなきゃいいじゃない。ほんとに仲のいい人30人ぐらいじゃダメなの?

古市:呼んでおかないと、「ごはん行きましょう」って言われたときに断りにくいじゃないですか。でも、今はコロナがあるので、断りやすいです(笑)。

>>【なぜ古市憲寿は次々と小説を書けるのか 注目の甘いラブストーリーを描くまで】へ続く

古市憲寿(ふるいち・のりとし)/1985年、東京都生まれ。慶応義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で注目される。2018年、初の小説単行本『平成くん、さようなら』(文藝春秋)を刊行。翌年の『百の夜は跳ねて』(新潮社)とともに2作連続芥川賞候補作となり話題を呼ぶ。最新作となる小説『アスク・ミー・ホワイ』(マガジンハウス)が8月27日に発売

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年9月4日号より抜粋