20代でコーチになって年代が近い選手を教え始め、50代の今は選手との年齢差が30歳にもなります。だんだんジェネレーションギャップが出てくると思いますが、コーチの役割は、ただ技術を教えたり記録を伸ばしたりするだけではなく、人生の道しるべを示すことだと考えます。

 7日に亡くなったゲナディ・トレツキーコーチは、五輪2大会連続で自由形短距離2冠を果たしたアレクサンドル・ポポフ(ロシア)らトップスイマーから人生の師として慕われてきました。

 シドニー五輪男子100メートル自由形で2位に敗れて3連覇を逃したポポフは、日本チームの控え場所近くのテーブルに座り、トレツキーコーチと20分ほど話をしていました。トレツキーコーチは頭を抱えて、ポポフのほうが冷静に見えました。話が終わるとポポフはトレツキーコーチの肩をポンポンとたたいて、サブプールに向かいました。コーチと選手の関係はどうあるべきかを考えるとき、このときに見た光景を思い出します。

 8月の短い解散で私自身もリフレッシュできました。1年後の五輪に向けて、本格的な強化に取り組んでいきます。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

週刊朝日  2020年8月28日号

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平井伯昌

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平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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