アメリカではなく日本で歌手になることを選んだAIさんは、ゴスペル的なメロディーに、壮大で、かつ普遍的な日本語の歌詞をのせて成功した初めての人ではないだろうか。かつて、久保田利伸さんにインタビューしたとき、「AIの書くメッセージが胸に響くのは、彼女がそれを本気で歌ってるからだ。メッセージに対する責任を彼女はちゃんと背負っているんだよ」と語っていたことがある。今回のアルバムに収録された楽曲にも、スペイン語や中国語が使われているのだが、言葉はわからなくても波動は伝わる。そのことを伝えると、AIさんは破顔一笑。「嬉しいなぁ」とつぶやいた。

「いつも“絶対伝わる”と信じて歌っているんです。私は、人が喧嘩しているのを見たくないし、人が傷ついて泣いているのも見たくない。いじめとか戦争とか、いろんな問題が目や耳に飛び込んでくると、ひとごとだと思えなくて、すごく苦しくなる。だから、世の中で苦しんでいる人がいなくなって初めて私が、『やったー、自由だ!』って思えるような気がするんです」

 自分だけがよければいいではなく、どんなときも、「人の立場になって考える」ということを忘れないようにしているという。

「相手の立場になってみるだけで、いろんなことが見えてくる。自分だったらどっちが嬉しいかな、とか。そういうことを想像して歌詞を書く。相手の立場になって考えることを、時々私も忘れてしまうから、歌うことで思い出せるよう、歌詞に入れたりもしています」

 取材が終わりかけたところで、子どもたちの、「ママ~」と叫ぶ声が聞こえた。「もうちょっと待ってね」と小さく言ったとき、AIさんは瞬時に母の顔になった。(菊地陽子 構成/長沢明)

AI(あい)/1981年、ロサンゼルス生まれ。鹿児島市育ち。2000年、デビュー。05年に「Story」で紅白歌合戦に初出場。以来、計3回紅白に出場。今年11月から20周年記念ツアーを開催予定

週刊朝日  2020年8月28日号より抜粋