小堀:社会が闇雲に突き進むことには不安がありますね。不安といえば、今の世の中に多くの人が不安を訴えています。私たちは約150人の往診をしていますが、3~4月はそのうちの30~40人が「コロナの感染が怖いから往診に来ないでくれ」と言うんです。その後も高齢者のデイサービスやショートステイが怖いと言う。面白いのは高齢者本人が「怖い」と言うのではなくて、子供たちが、「親が危ないから動かしたくない」と言うんです。

 その結果、デイサービスでのカラオケや入浴がなくなり、動かなくなって病状が悪化している。玄関までさえ歩けなくなっているお年寄りもいました。これはコロナに対する不安や恐怖から来ていると思うんです。

養老:つまり、痛みと同じで不安はよくないことだ、と考えているんですね。でも、痛みはマイナスの警報であって、実は無痛症の人が若くして亡くなることは多い。不安も同じですね。僕は不安を感じない人と一緒に虫捕りには行けません。どういう危ないことをするかわかりませんから。

 不安を排除するのではなく、不安と同居するやり方を覚えていくことが「成熟」なんです。死についても同じことが言えますね。どっちみち死ぬのだから、とヤケクソになるのではなく、死と上手に折り合って生きるのが大人になることなんですね。

小堀:最近、京都大学の川村孝名誉教授の言われていることが気になっています。川村教授は、人が倒れていたときの救急救命法で、従来は人工呼吸と心臓マッサージを同時にやれとか、交互にやれとか言われていたときに、人工呼吸はいらない、胸をリズミカルに押す心臓マッサージだけでいい、と証明した人です。

 その川村教授が、コロナ対策で3月の学校休校や4月の緊急事態宣言について、うちの中に一匹の蚊がいたといって、そこに大砲を撃ち込むようなものだ、とおっしゃったんです。非常に思い切った発言だと思うのですが、1万人に2人しか発症していないのに、多くの人が過剰に反応するのは、このウイルスがわからない、未知のものだからだ、と言われています。こういう考え方も参考にすべきかな、と思いました。

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