映画「二人ノ世界」は全国イオンシネマほか全国順次公開中(c)2020『二人ノ世界』製作プロジェクト
映画「二人ノ世界」は全国イオンシネマほか全国順次公開中(c)2020『二人ノ世界』製作プロジェクト
永瀬正敏 (撮影/写真部・加藤夏子)
永瀬正敏 (撮影/写真部・加藤夏子)

 6年越しの劇場公開が決まった映画「二人ノ世界」。学生制作チームに永瀬正敏さんが単身飛び込んで出来上がった作品だ。永瀬さんが、若かりし頃を振り返る。

【永瀬正敏さんの撮り下ろし写真はこちら】

[前編:永瀬正敏が学生制作映画「二人ノ世界」に出演した理由 より続く]

 佇まいはとても個性的でありながら、映画の中ではその個性を消すこともできる。映画界のトップランナーなのに、普段は穏やかな雰囲気を漂わせる。そんな永瀬さんでも、「若い頃は、“誰よりも深い爪痕を残してやる!”という意気込みを持つことは大切なのかもしれない。僕だって、20代の頃はそうでした」と、30年近く前、山田洋次監督の「息子」という映画に出演していた時代に想いを馳せた。

「20代半ばの僕が、『役者ってすごいなぁ』とコテンパンに打ちのめされたのは、三國連太郎さんとご一緒したときでした。三國さんは普段から、ものすごく腰の低い方で、僕を緊張させないように、待ち時間にはしょっちゅう声をかけていただいたんです。その三國さん相手に、僕がハイスピードでセリフを言って、三國さんが背中越しに僕の言葉を聞いているシーンがあって、若かった僕は、直球をガンガン投げるように芝居をしました。内心では、『あれ? これは三國さんとやり合えているかも』と思っていたんです。当時はフィルムだったので、ラッシュというのがあって、三國さんは一切チェックしないけれど、僕はスタッフさんから、『見ておいたほうがいい』と言われて見たら、三國さんの、ただ背中を丸めているだけの芝居に圧倒されたんです。僕の投げた直球に対して、全部特大のホームランを打たれていた」

 粋がっていた20代の若造が、大ベテランに挑んだ一対一の勝負。しかし勝負としては“完敗”だった。

「『何もしてないのに背中で感情の全てを表している。僕はなんてちょこざいな芝居なんだ』と。その後ビール飲みながら、『お富さん』を歌うんですが、セリフなんかなくても、喜びが溢れていた。『役者って、こんなすごいことができるんだ』と、芝居の凄み、深みを背中で教えてくれたのが三國さんでしたね」

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