それが、今回の現場では、学生スタッフの情熱にも痺れた。

「どんな仕事でもそうだと思うんですが、長く続けていると、どうしてもテクニックや効率を優先させてしまったりする。でも、今回は学生チームで、予算もほとんどないし、人手も足りないので、彼らはひとり何役もやっていて、それが、すばらしい仕事ぶりでした。現場で不満に感じることが何一つなかった。今回僕は、36歳のときに事故に遭って、首から下の自由を失った男を演じたのですが、彼が使う電動車椅子も、スタッフがメーカーさんに何度も通って、お借りすることができて。僕の担当の子が、空き時間に、車椅子の使い方を必死でマスターして僕に伝えてくれた。そういうピュアな情熱に出会えたことが、とても新鮮で、楽しかったです」

 現場で様々な刺激を受ける一方で、四肢の不自由な役という設定には、随分苦しめられたという。

「お芝居って、基本はキャッチボールなんですよ。どちらかが投げたら、どちらかがその球を受け止める。今までなら、台本に書いてないちょっとしたしぐさで、カメラに映らないところで球を投げたり、受けたりすることができたんですが、とにかく顔しか動かせないので。芝居をしながらここまでストレスが溜まったのは久しぶりですが、実際に障害のある人は、どれだけ生きることに対して大変かということを痛感しました」

 相手役は、当時大学3回生だった土居志央梨さん。この道30年のベテランである永瀬さんを相手に、盲目の女性の役を堂々と演じている。

「でもね、芝居に経験値はあまり関係ないんですよ。子役に『やられた』ってこともあるし(笑)。僕自身も、毎回役ごとに自分をリセットできていたらいいなぁと思います。脚本を読んでいくと、どうしても先にイメージができてしまう。若い頃なんかは、そこから、芝居のメソッドというか、自分なりに何かをガチガチに構築してから現場に行ってました。でも、ある時期から、『独りよがりのやり逃げみたいな芝居じゃなく、みんなでスクラムを組んだほうが面白いじゃん』と思い始めた」

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