出口治明さん
出口治明さん

 60歳でライフネット生命を開業し、70歳の年に立命館アジア太平洋大学(APU)の学長になった出口治明さんは、年齢には意味がないと言い放つ。

「朝起きて元気だったら働けばいい。しんどかったらやめればいい。60歳で人生終わりなんて考えるのは、定年退職を常識と思って疑わないからなんです」

 人生100年のうち20歳からの大人の期間が80年とすると、還暦は折り返し地点に過ぎないという。

 近著『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』(講談社現代新書)では、60歳以降も働き続ける意味、孤独や死の考え方、自分の世界を広げる方法などを自身の経験を交えて語っている。単純なノウハウを提供するのではなく、社会の見方、高齢者の役割を考えさせる。

「動物は子供を育てたら、あとは死ぬんですよ。人間がなんで長く生きるかといえば、経験を積んで、次の世代を育てるためです。保育園が近くにできると、うるさくて昼寝ができない、などと言うのはもってのほか。若者は大人を見て育ちます。大人がロールモデルなんです」

 とくに年金問題、画一的な組織など、日本社会への提言は手厳しい。G7最下位が続く労働生産性の低さ、同じく最下位のジェンダーギャップ指数121位という現状は、日本の恥だと憤る。

「こういう問題があることを知ってほしいんです。知識は力になります。データを直視して考えないと変わりません。社会の仕組みが悪かったら楽しい人生はおくれないんですよ。政府を批判して逮捕される社会なんていやでしょう」

 ジョージ・オーウェルのディストピア小説『一九八四年』では、全体主義国家の指導者が「無知は力なり」と述べていた。管理社会をつくって既得権を守るには、市民を無知にしておいたほうがいい。市民が自由に楽しい生活をおくりたければ、「知識は力なり」で対抗するしかないという。

 この本の後半では歴史好きの出口さんらしく、歴史に学ぶ大切さが語られる。

「歴史は少なくとも約5千年前から文字の記録が残っています。自分の経験だけではなく、他人の経験も学んでおいたほうが得やで、ということです。しかも歴史はおもしろい。なぜなら、地球上に生きてきた何百億人もの生涯の積み重ねの中で、つまらない話は消えて、おもしろい話だけが残っているからです」

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