しかし彼らは、誰が酔っ払って頭を打ち、あるいは誰にガールフレンドができたかまですべてわかるということは言わない。それでも、警察から「人間も物事もすべてをコントロールすることに使えます」と言われたら、政治家は言うことを聞く。政治家は、国民をコントロールすることは良いことだと考えているからだ。

 仮に、暗号通貨のように政府が監視できないシステムが確立されたとしよう。そのシステムを使用した人間は、いずれ処刑されることになる。政府はそのお金の動きを監視できないからだ。

 監視について私たちは、まだ知らないことが多すぎる。いずれ、どこかの国の政治家が、国民のすべての行動を把握しようと考えるだろう。その時、国民の一部から「政府が自分たちの行動を特定できるIDを保持しているのは、素晴らしいことです」と言い始める人も出る。だが、結局は彼らは銃で脅してでも、監視しようとするだろう。おそらく、「監視カメラに見られたくない」と言う人が投獄されるにしたがって、その数は増えていく。

 これまで想像できなかった未来がいずれやってくる。それでも私は言う。私は監視が嫌いだ。

(取材/朝日新聞シンガポール支局長・西村宏治、構成/本誌・西岡千史、監修/小里博栄)

ジム・ロジャーズ/1942年、米国アラバマ州出身の世界的投資家。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される。2007年に「アジアの世紀」の到来を予測して家族でシンガポールに移住。現在も投資活動および啓蒙活動をおこなう

週刊朝日  2020年8月14日‐21日合併号

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ジム・ロジャーズ

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ジム・ロジャーズ/1942年、米国アラバマ州出身の世界的投資家。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される。2007年に「アジアの世紀」の到来を予測して家族でシンガポールに移住。現在も投資活動および啓蒙活動をおこなう

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