古賀茂明氏
古賀茂明氏
終戦の日に「おことば」を述べた天皇陛下と皇后さま(c)朝日新聞社
終戦の日に「おことば」を述べた天皇陛下と皇后さま(c)朝日新聞社

 毎年8月は太平洋戦争について考えるときだ。

【写真】終戦の日、「おことば」を述べた天皇陛下と皇后さま

 今回は北海道東川町の話を紹介したい。私は、同町の「大雪遊水公園」という大きな公園で、ある立像を発見した。その台座には「望郷」の2文字がある。その上には、遠くの空を望む青年の銅像が立つ。開拓民が、遠く離れた故郷に思いを馳せる姿かと思ったが、全くの見当違いだった。

 その碑文を要約して紹介しよう。「戦時中の国策として忠別川(大雪山系石狩川の支流)に水力発電所が建設されたが、その発電用水は14キロメートルのトンネルで導水されるために水温が上昇せず、下流の水田に冷害をもたらした。水を回流させて温度を上げるために遊水池建設が計画され、工事のために1944年(昭和19年)9月に338名の中国人が強制連行された。(真冬に氷水の中でという)劣悪な環境下で過酷な労働が強要され、終戦までの11カ月間に88名が死亡。大半は若人だった。異国の地で故郷の父母や親族のことを瞼にえがきながら斃れていったその無念さを思うと慙悸の念を禁じ得ない。この史実を後世に伝え、なお一層の日中友好の発展と永遠の世界平和を願い、88名の中国烈士の御霊に深甚なる祈りを込めてこの像を建立する。2000年7月7日 東川町長 山田孝夫」

 中国語訳と英語訳も並び、中国や世界の人々に、自分たちの犯した罪と恥を認め、「反省」と被害者への鎮魂、世界平和を祈る気持ちを伝えようとする感動的な内容だ。

 取材を続けてわかったのは、この恥ずべき「犯罪」行為を多くの関係者が隠そうとしたことだ。終戦後、88名の遺体が適切に葬られていなかったという疑いが生じたとき、何と、建設工事中に中国人労働者を使用した土建会社は、適切に葬ったと偽装するため、偽の遺骨を中国側に返還したことが後にわかった。北朝鮮と同じ行為だ。

 今回、この話を取り上げたのは、この銅像が建立された2000年当時には、日本の過去の過ちを堂々と認めることができる政治・社会環境があったということを示したいと思ったからだ。今、この銅像と碑文を残そうとしたらどうなるか。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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それほど日本社会は変化したということだ