神奈川大会では2年時、3年時と準々決勝敗退でした。最後の試合のことは、30年以上たちましたが、よく覚えています。高校3年の夏、法政二に0-1で負けました。もっとこうできたなと思うこともありますが、何より思い出に残っているのは、負けたその日に高校に帰ってからのことです。チームメートみんなでグラウンドに出て、練習したんですよ。「最後だ?」って声を上げながらね。悔しくてほとんどの人が泣いていました。でも、あの時思ったのは、みんな泣けるほど頑張ったんだって。3年間やりきったことは、その後の人生にも生きています。

 途中で投げ出さないということは、一般社会においても大事なことです。これから大人になって、困難や苦しいことは必ずたくさん出てきます。その時に、最後までやり抜いたという経験は何よりの自信になるはずです。

 私は50歳まで現役を続けました。「中年の星」だなんて言っていただきましたが、若手のころは毎年、クビになる恐怖と背中合わせの生活でした。それでも「野球が好き」の気持ちを原動力に、あきらめずにやりきりました。現役生活を振り返ると、細かなところでの悔いはあっても、後悔はないんです。その時その時は一生懸命やっていたはずだからです。

 みなさんも間違いなく一生懸命、野球に取り組んできたと思います。やり抜いたという経験を糧にして、いつか、笑って「大変な年だったな」って言える日が来てくれるとうれしいなと思います。

●山本昌さんのプロフィール
1965年、東京都生まれ。日大藤沢を卒業後、中日に入団。2006年に史上最年長でのノーヒットノーラン、08年には同じく史上最年長で200勝を達成した。15年、50歳で引退。プロ通算219勝。

構成:本誌・秦正里

週刊朝日増刊「甲子園2020」より