山本昌さん(C)GA Link,inc.
山本昌さん(C)GA Link,inc.

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった今夏の選手権大会。8月10日からは選抜大会の出場校による「2020年甲子園高校野球交流試合」が阪神甲子園球場で行われるが、多くの高校球児たちにとって甲子園出場という目標を奪われたことに変わりはない。未曾有の困難をどう乗り越えたらいいのか、野球界の先人たちに球児たちへのメッセージを聞いた。第4回は、元中日ドラゴンズの山本昌さんにお話をうかがった。(週刊朝日増刊「甲子園2020」より)

◆  ◆  ◆

 野球がすべてではないという言葉もありますが、すべてを懸けて頑張ってきた子たちを知っています。私自身、母校である日大藤沢の特別臨時コーチとして、子どもたちを指導してきました。新型コロナウイルスの影響で2月末から一切の練習がなくなり、そのうえ県境をまたぐこともできなくなったことで、名古屋を拠点にしている私は関東に行けなくなりました。生徒たちにはまだ会えずにいます。これまで甲子園出場を夢見てひたむきに頑張る姿を近くで見てきたので、どんな言葉をかければいいのか、答えは見つかっていません。

 たとえ甲子園を狙うようなチームではなくても、夏の大会は高校3年間の成果を最後に示す場。それを奪われたというのは、当分ショックが残るだろうと察します。おそらく9割近くの高校3年生が高校を最後に野球から引退すると思います。大学野球、社会人野球、プロ野球など、上でプレーする選手は一握り。甲子園に行っていたら、もしかしたら注目されて大学に推薦があったかもしれない、プロに入れたかもしれないと、そういう夢すら見られなくなってしまった。将来の進路や人生設計が狂ってしまった高校生は本当につらいだろうけれど、私が彼らに向けて伝えられることは、「やってきたことは決して無駄になっていない」ということです。

 私の高校時代も当然、甲子園への出場が目標でした。小学生の時に野球を始めて、卒業文集には「将来はプロ野球選手になりたい」なんて書きましたけど、やっぱり甲子園へのあこがれは強かった。中学校、高校のときには「プロ野球より甲子園」と思っていたくらいです。

次のページ
山本昌さんが今も忘れない高3夏、試合敗退後の思い出とは