保坂さん自身、57歳が転機となっている。某大学医学部の教授職から、聖路加国際病院に移り、がん患者向けの精神腫瘍(しゅよう)科を新設した。

 死にゆく人の心に寄り添うため、「死生観」を学ぼうと、59歳で高野山大学の通信制に入学。そこで得た知識と体験は、臨床の現場で生かされているという。2017年に定年退職したのを機に、がん患者と家族の心のケアをするクリニックを開業した。

「僕の50代はものすごく意味があると思っています」(同)

 アンチエイジング関連の著書がある、北里大学名誉教授の塩谷信幸さん(88)は、経済的な準備に加え、心の準備もしっかりしておくことが必要だという。年齢を重ねると、仕事も居場所も役割も減る上に、今はコロナ禍。

「人々の生活スタイルや物事のとらえ方、感じ方は変わってゆく。それは決して元には戻らないでしょう」

 とはいえ、塩谷さんはそれをマイナスとは捉えていないようだ。

「テレワークなどは、高齢者にとっても働く場が広がるわけです。新しい仕事やライフスタイルをそれぞれが作っていくことになるのだと感じています」

(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2020年8月7日号