定年後の仕事をどうするか考える一方で、弘兼さんは、家庭での過ごし方や夫婦の形についてもこんな提案をする。

子育てという役目を果たした後の夫婦のことを考えてもいい。お互いに干渉せず、それぞれの時間を大切にしたいという夫婦もいる。夫にずっと家にいられるとストレス、という妻だっている。そういう場合、離婚ではなく『卒婚』という形があっていいと思う。もちろん、定年後にやりたかった夢を妻が応援してくれたり、夫婦で一緒に楽しめることを見つけたりできればそれもいいでしょう。病気はストレスが元になることが多い。とにかく中高年の生き方の中で一番大切なのは、ストレスフリーになることだと思う」

 連載中の『黄昏流星群』は、弘兼さんが50歳になる前に描き始めた作品だ。当時は、中高年の恋愛をテーマにした映画などはあったが、周囲で50歳を過ぎてからの恋愛話はほとんど聞かない時代だったという。

「20年以上経った現在はまったく違う。50歳で結婚していないという人も増えているし、離婚や死別した50代以上の人が恋愛や結婚をしたり、一緒に住んだり、というのが当たり前のようにある時代になった。生涯未婚率という概念とか意味がなくなってきている。不倫は別として、中高年でも恋愛して、楽しい、うれしい、という感覚を得ることは細胞を活性化させて、長生きにつながる」

 55歳前後の読者には、こうエールを送る。

「コロナ禍でも落ち込まず、自分に起こることを人や国のせいにしないこと。人生は自己責任です。プラス思考で生きる。落ち込むとストレスの元になりますから。人生楽しんだもの勝ちです」

(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2020年8月7日号