モデルナはこの1年間で5億回分のワクチンを製造する。2021年から年10億回分規模に拡大する予定だが、課題も抱える。

「免疫が長期にわたって続くのかどうか、何もわかっていません。また、ワクチンによってまれに発生する重大な副作用は、10万分の1くらいの割合です。3万人規模(の臨床試験)ではわからず、ワクチン市販後の調査でなければ明らかにならないのです」(久住医師)

 それもそのはず、人体用に核酸ワクチンなど、ウイルスの遺伝情報を利用したワクチンが承認された前例がないのだ。

 従来型ワクチンには、生きたウイルスの毒性を弱めて体内に入れる「生ワクチン」と、感染力を失わせたウイルスを使う「不活化ワクチン」がある。いずれにしてもウイルスを大量に培養するのに長い時間がかかり、感染を防ぐための厳重な施設も必要だ。今回のようなパンデミック(世界的大流行)で実用化が急がれる場合は、弱点とされた。

 日本ワクチン学会理事長の岡田賢司・福岡看護大学教授が語る。

「核酸ワクチンが優れている点は、早く臨床試験が行えることです。新型コロナウイルスの感染が最初に確認されてから半年程度で、後期の試験に入っているのは極めて異例です。けれども、核酸ワクチンは実用化された例がないから、研究者も企業も試行錯誤しながら開発に取り組んでいる状況です。一方の従来型ワクチンは、多くの時間は要してもこれまでのノウハウがあるので成功する可能性が高いという見方がある。双方のメリットとデメリットを勘案しながら実に多くのトライアルがなされていますが、実用化されるものがどれだけ出てくるのかは、本当にわかりません」

 新型コロナのワクチンは現在、従来型と遺伝子ワクチンを含め、世界で166種類が開発されている。うち24種類が臨床試験に入ったが、加速度を増しているのは遺伝子ワクチンだ。

 米ファイザーはモデルナと同様に、メッセンジャーRNAによるワクチンを開発する。英アストラゼネカや、中国のカンシノ・バイオロジクスの遺伝子ワクチンは「ウイルスベクターワクチン」と呼ばれるものだ。無毒なウイルスの一部を新型コロナウイルスの遺伝情報に組み替えて、体内に運ばせる。

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ワクチン接種によるリスク