帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
医者冥利に尽きる患者さんの退院 ※写真はイメージ(Getty Images)
医者冥利に尽きる患者さんの退院 ※写真はイメージ(Getty Images)

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「医者冥利」。

*  *  *

【ポイント】
(1)つくづくうれしくなる患者さんの卒業式
(2)患者さんが少しでも良くなるとうれしい
(3)偏った思い込みのある患者さんには苦労する

 医者をやっていて、つくづくうれしくなる時があります。それは患者さんの“卒業式”です。最近も2人の方が卒業しました。

 45歳の男性、左肺上葉腺がん。2013年6月、診断。同年9月、化学療法開始。同年同月、本院初診、漢方薬開始。14年12月、転移性副腎腫瘍切除手術。15年2月、左肺上葉切除手術。同年8月、化学療法を終了。この後も漢方薬を続行。

 20年6月。「抗がん剤を終了して、まもなく5年です。先生、そろそろ卒業でよいでしょうか」「ああ、いいでしょう。では卒業式を行います」

 そう言って、拙書に「祝卒業」とサインして進呈します。

「ありがとうございます。こうして卒業できたのは先生のおかげです」

 この言葉を聞くと、医者冥利(みょうり)に尽きます。

 卒業式はたいてい、患者さんの申し出で行います。

 85歳の男性、胃がんと食道がん。1988年8月、胃がんの手術。91年7月、食道がんの内視鏡手術。92年8月、本院初診、漢方薬を処方し続行。そして、20年5月。

「先生、先生のところでお世話になってもう28年になります。そろそろ、卒業してもよろしいでしょうか」「えっ! 28年! そんなになりますか。いいですよ。卒業式といきましょう」

 こういう患者さんは無二の親友に思えてきます。

 長年、がん診療をしてきて数多くの患者さんに出会いました。どんな患者さんであっても、少しでも良くなってくれると、医者としてはうれしいものです。しかし、病を治すのは医者の力だけではありません。患者さん自らの力が大きいのです。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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