日本国内では、塩野義製薬や第一三共、アンジェスなどが国産ワクチンの開発に取り組む。仮にモデルナや日本企業のワクチン開発が五輪までに間に合い、日本人に接種できたとしても、五輪を目指す世界中の選手すべてが接種を受けられるわけではない。特にワクチン争奪戦で取り残される発展途上国にワクチンが行き渡るのは時間がかかるとみられている。

 国際医療福祉大学医学部の和田耕治教授(公衆衛生学)がこう指摘する。

「日本もそうですが、各国とも五輪選手が決まっていない競技がたくさんありますし、十分な練習もできていません。選手の中で感染者が出たら、チーム全員が出場できなくなるでしょう。すべての選手に公平な大会が担保できない以上、開催は難しいと思います」

 それどころか、大会開催都市の東京都は1日あたりの感染者数が連日過去最多を更新。7月17日は293人に上った。小池百合子知事は新宿などの「夜の街」をしきりにやり玉に挙げるが、その裏で都の業務の遅滞ぶりが浮き彫りになった。

 民間の医療機関がPCR検査を実施する場合、都道府県と委託契約を結ぶことになっている。「ナビタスクリニック新宿」(東京都新宿区)は唾液(だえき)によるPCR検査を実施するために、6月初めに都に申し入れたが、申請書類すら催促してもなかなか送ってこなかったという。ようやく契約が成立して検査ができるようになったのは、1カ月以上も経った7月10日。そうしているうちに感染再拡大は起きたのだ。

 同クリニック理事長の久住英二医師が厳しく批判する。

「こんなスピード感では、第2波の感染症対策は失敗が確実です。第1波で目詰まりした検査体制を、この5~6月のうちにどんどん広げていく必要がありました。それなのに感染が広がってしまった状態では、もはや手遅れなのです。都はサボタージュしていたと言われても仕方がないと思う。小池知事は『夜の街』を非難していますが、具合が悪くても検査を受けない人が増えるだけです。感染者の潜伏を招き逆効果です」

 都の感染症対策部に尋ねると、担当者はこう答えた。

「医療機関の院内感染防止対策を確認できれば、正式な契約を待たず、検査だけは先行して早くやっていただけるよう電話連絡するようにしています」

 そのような配慮はなかったわけで、とても大会を開催できる状況ではない。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2020年7月31日号