臨海副都心の新たなランドマーク──。都がこうアピールしてきた施設も開業が延期された。五輪に合わせて7月14日に開業予定だった江東区青海の「東京国際クルーズターミナル」だ。

 岸壁の長さ430メートル、水深11.5メートルと、世界最大級の大型客船も入港できるものだ。既存の「晴海客船ターミナル」(中央区)は、レインボーブリッジの内陸側にあり、大型船は橋の下を通れなかった。

 都は新設のターミナルについて、入港時の料金を減免する制度を設けるなどし、各国に誘致を促してきた。臨海部を結ぶ新交通システム「ゆりかもめ」の最寄りの駅名も昨年、「船の科学館」から「東京国際クルーズターミナル」へ変えた。

 ところが、新型コロナの感染拡大でクルーズ船の運航取りやめが続出。開業日に入港予定だった大型船もキャンセルに。このため開業は9月以降にずれ込む。

 新設のターミナルは、かりに都が統合型リゾート(IR)を誘致する場合、海の玄関口となる。都から依頼され、臨海部の将来像を検討してきた官民チームが昨秋まとめた提案書には、江東区青海にIRや国際会議場などを整備する内容が盛り込まれた。肝心の都は、IRについて「メリットとデメリットの両面を総合的に検討したい」(小池知事)と、誘致するかどうかを明言していない。都の担当者も、IRの誘致方針は「提案書に縛られるものではない」としている。

 しかし、元都職員で「臨海部開発問題を考える都民連絡会」事務局長の市川隆夫さんは「都は臨海副都心地域への誘致に傾いているはず」とにらむ。

「お台場や青海、有明、豊洲、晴海などの臨海副都心地域には、まだ2割程度の未処分地が残っています。バブル経済崩壊後にいったん頓挫していた臨海開発をてこ入れし、進めてこられたのは、五輪という大義名分があったことが大きい。そしていま、五輪後の格好の理由付けとして浮上しているのがIRの誘致計画。都は18年度の委託調査報告書でIRを『オリ・パラ大会後の経済成長の起爆剤』と位置付けています」

 市川さんらは、選手村の跡地開発も問題視する。17年8月には、敷地を保有する都を相手取り、マンション群を開発する企業グループと周辺の土地価格よりも不当に安く売却する契約を結んだとして、適正価格との差額を賠償するよう求める訴訟を東京地裁に起こした。裁判はいまも続く。

「臨海部の再開発は東京への一極集中を加速し、その弊害をより深刻なものにします。弊害を克服するための投資が人口を呼び込み、弊害がさらに大きくなる悪循環に陥っている。どこかで歯止めをかける必要があります」(市川さん)

 見直すべきなのは、五輪だけではなさそうだ。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2020年7月31日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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