選手村跡地につくる小中学校も同じだ。小中いずれも1学年当たり5クラスの計45クラスで、1700~1800人の生徒・児童の受け入れを想定している。23年4月の開校予定だったが、大会後に敷地を買って校舎を建てるので、やはり五輪しだいとなる。

 前出の榊さんは、五輪の延期や中止でマンションの売れ行きが鈍り、価格を引き下げるような事態になれば、首都圏のほかのマンション価格にも影響が及びかねないとみる。

「晴海や有明といった五輪の競技会場や選手村などの施設が近い東京の湾岸地域は、五輪の開催が決まった13年9月以降、マンション価格も上がり、入居する高所得層の生活レベルに見合った飲食店や商業施設が集まって街自体の魅力も上がってきました。しかし、湾岸地域はそもそも交通の便が悪い。交通の利便性は資産価値を決める大事な要素。少なくとも今後、湾岸地域のマンションは五輪の開催決定後にかさ上げされた2割くらいの価値がはげ落ちていくでしょう」

 交通手段を広げるには時間がかかる。晴海フラッグは、最寄りの都営大江戸線の「勝どき駅」や「月島駅」から歩いて約15分。JRなどが乗り入れる「新橋駅」や東京メトロ日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」などと、選手村を結ぶバス高速輸送システム(BRT)も、試行運転の開始が当初の5月から遅れ、2カ月経ったいまもなお、「調整の見通しは立っていない」(都担当者)。豊洲や有明、お台場方面にも向かう22年度以降の本格運行も先延ばしされそうだ。

 臨海部と都心をつなぐ鉄道の増強計画も、不透明感が増す。例えば東京メトロの「地下鉄8号線」(有楽町線)の分岐・延伸計画は、国の計画に位置付けられた1972年から半世紀近くなるが、実現のめどが立たない。有楽町線「豊洲駅」から北上し、東西線「東陽町駅」を経て半蔵門線「住吉駅」に向かうルートで、東西線の混雑を和らげるなどの効果が期待されている。

 新ルートの地元・江東区にとっては悲願だ。「南北に長い区の一体感を高める」(江東区の担当者)など期待は多い。もともと、築地市場(中央区)を豊洲(江東区)に移転するための条件の一つとして、都と約束した経緯もある。再選をねらった小池百合子氏が7月の知事選の公約で、優先的に整備を検討する路線の一つに挙げた。

 だが、鉄道ジャーナリストの梅原淳さんは言う。

「東京メトロは副都心線をつくった後は路線の新設・増設には消極的と言われています。もともと乗り気でなかったところに新型コロナの感染拡大や五輪の延期があり、事業計画の不透明感は増しました。より慎重になるかもしれません」

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