今年2月、異例の定年延長をし、東京高検検事長の座に居座っていた黒川弘務氏は賭けマージャンで失脚、辞任に追い込まれた。独立性が高い検察の人事でもし黒川氏が検事総長となっていれば、検察人事まで官邸が握ることになりかねなかった。それが河井事件の捜査が進む過程で、元のサヤに戻った格好だ。自民党幹部がこう話す。

「官邸が強引に黒川氏を総長にしようとしたので、検察が反発し、河井夫妻は立件された。起訴猶予になったが、菅原一秀前経産相の公選法違反疑惑も危なかった。官邸は今回の検事総長交代で検察人事に手を突っ込まないというシグナルを必死で法務省に送った。その見返りに自民党本部への捜索も収めてくれよという、官邸と検察の阿吽(あうん)の呼吸だろうね」

 自民党本部からの1億5千万円のうち1億2千万円は政党交付金で、つまり国民の税金から支出された。

 自民党の説明によると、多くはチラシや広報紙などの配布に使われたというが、「河井夫妻の預金と照合して収支が合わない部分がある」(前出の捜査関係者)

 前出の郷原弁護士が話す。

「河井被告夫妻のバラまき方を見ると、県議なら30万円が相場などと、誰かから指示があったようにも思える。配ったカネの原資も含め、河井夫妻は百日裁判で正直に話したほうがいい。裁判でも否認していると実刑になる可能性が2人にはある。決して遅くない」

(今西憲之)

週刊朝日  2020年7月31日号

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大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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