しかも、IOCは追加費用について最大で8億ドル(約858億円)しか払わない意向だ。つまり、負担の多くは日本側が請け負うことになる。

 では、誰が払うのか。コロナ禍で多くの企業の業績が悪化する中、組織委は国内スポンサーとの契約延長で苦戦が予想される。都はコロナ対策で、自治体の貯金にあたる財政調整基金を9割取り崩した。ともに追加費用を払える余裕はない。

 前出の鈴木氏はこう説明する。

「五輪の経費的な問題はちゃんとIOCとの契約書の中に書いてあります。組織委の資金がなくなったら、東京都が補てんします、東京都の資金がなくなったら国が補てんします、
と書いてあります」

 来夏開催を公約に掲げて都知事選で圧勝した小池知事も、結局は国頼み。つまり、国民が負担を強いられるということだ。

 自民党都連の関係者は、小池知事の「五輪の政治利用」について、こう語る。

「東京五輪が開けなかったからといって、ご本人の原因とは言いませんけど、今まで五輪を活用して自分の立場を作ってきましたから。五輪が最大の売りなんです。そういう点から言うと、(中止となれば)大きなダメージを受けるでしょう」

 開催中止はあるのか。IOCは可能性が十分にあることを分かっている。バッハ会長は5月20日、英BBCのインタビューで、来夏開催が無理になった場合は(再延期ではなく)中止にする見通しを示した。ワクチン開発を開催条件にするかは明らかにしなかったが、「WHOの助言に従う」とも発言した。同月22日にはコーツ調整委員長が豪オーストラリアン紙で、開催可否を評価する時期は10月ごろになるとの見通しを語った。

 こうした発言に危機感を抱いた日本側は6月、大会簡素化を打ち出し、来夏開催に向けた工程表を示した。IOCも中止論を打ち消し、歩調を合わせた。
 だが、IOC古参委員のパウンド氏は今月、ロイター通信に対し、来夏開催が中止となった場合は22年北京冬季五輪の開催も難しいとの見通しを語り、再び東京五輪の中止論が浮上した。

「もし先に、東京が『中止』を言ったら、日本側に賠償が発生する可能性があります。だから、開催も中止も、そう簡単にはことは進みません」(前出の角谷氏)

 朝日新聞社が7月18、19日に行った全国世論調査によると、大会開催について「来夏」が33%、「再延期」が32%、「中止」が29%で、再延期と中止を合わせると計61%に上った。国や都、組織委が進める来夏開催について、多くの人が消極的であることが改めて明らかになった。

 本来なら今年、聖火リレーを走るはずだったタレントが所属する芸能事務所の担当者はこう話す。

「地元を走る予定でした。とても名誉なことだし、楽しみにしていたんですが、『しょうがないですね』と気持ちを切り替えています。スケジュールの問題もあるので、来年の聖火リレーに参加できるかは未定です」(本誌・上田耕司)

※週刊朝日オンライン限定記事

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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