法政大・田中優子総長 (撮影/写真部・掛祥葉子)
法政大・田中優子総長 (撮影/写真部・掛祥葉子)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、全国の大学がオンライン化を進めている。法政大学の田中優子総長は、オンライン化がこれまでの“不自然”な学び方を変えていくと期待する。

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 大学の授業はすぐに元には戻りません。

 オンライン授業に手応えを感じています。大人数の授業でも、教員と学生が一対一で話しているような状況になるからです。質問を投げかけて、やりとりもできます。以前であれば、大教室の授業では“内職”する学生がいましたが、それができない授業も増えるでしょう(笑)。

 オンライン化によって、学生からも授業について提案が出ることを促しています。学生のほうがインターネットに詳しかったりしますからね。学生の知恵をどんどん取り入れていくことができる。学生がもっと能動的になることを期待しています。法政大では当面、対面授業とオンライン・オンデマンド授業の「併存型」でいく考えです。大教室の講義はしばらく難しいでしょう。

 大学の学びの空間も変わりました。大教室等を準備し、学生がバラバラに座って、別々のオンライン授業を受けることができる空間を用意しています。イヤホンをして、みんなが異なる会話をするようになるでしょう。

 私は江戸時代の研究者ですが、江戸時代は現在のように教室の前に先生がいて、学生が全員同じ方向を向いていることはむしろ不自然でした。芝居を見るときを除いて、これはありえない風景でした。

 例えば、寺子屋では自分で机を持ってきて、好きなところに座って、年齢の異なる子供が同じ空間にいて、皆が異なる教科書を学ぶのです。つまり個人教育なんです。

 高等教育になると藩校や私塾に行きますが、学び方は一緒。異なるのは議論をする点です。『論語』を暗唱し、その意味について先生から講義を受ける。その後、生徒が講師となって講義をする。ここで先生や先輩から批判を浴びながら、議論を深め、論理力を高めていく。ここで育った人たちが、明治維新を起こしたわけです。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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