京都大・山極寿一総長 (大学提供)
京都大・山極寿一総長 (大学提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全国の大学が学びの機会をどう確保するかとともに、新しい教育のあり方を模索している。京都大学の山極寿一総長がその行く末を語る。

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 これからの大学は「学びの壁」がなくなる方向に動いていくと思います。

 オンライン授業によって国や地域をまたいで授業を受けられるようになりました。費用をかけずに、どこにいても、好きなときに講義を受け、質問もできる。これは本来の学びの姿に近づいたと思っています。

 これからは大学の連携がもっと進んでいきます。日本の大学に所属しながら、オンラインで海外大の授業も取り、両方の大学の学位が取れる「ダブルディグリー制度」なども増えてくるでしょう。お互いの強みを生かして、ともに学生を育てていくというプラットフォームを日本が率先して作っていくべきと考えています。

 留学生の獲得に力を入れるべきです。文部科学省や産業界は「世界大学ランキング」を見て、日本の大学は劣後していると言いますが、日本の大学教育でも世界に冠たるものはたくさんあります。イギリスでは留学生から国内の学生の3倍もの授業料を取りますが、日本では同じ授業料で、“差別”しません。政府や大学はこうした強みを売り込む「教育外交」を展開するべきです。

 国内の大学同士でもオンラインで連携を強め、ダブルディグリーなどを作るべきですね。まだ国内でこうした制度はありませんが、京大ではやろうと考えています。これができれば、大学の個性化が進みます。大学の淘汰(とうた)も進む可能性があります。

 だけど、オンラインにも決定的なデメリットがあります。それは難しい議論には向いていないということ。例えば、30人との対話となると、一瞬で皆の顔を見回して、周りがどう考えているのか察知するのは不可能です。これでは議論の着地点を見いだすことはできません。

 映像情報や文字情報からでは伝わってこないものが、生の情報にはあるんです。学生にとっても、講義だけではなく、仲間と語り合いながら共通の体験をするサークルなどの課外活動が、どれほど重要かわかったと思います。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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