たしかに30分は短すぎる。今日もブラックバスを1匹釣って、貝殻を数個拾っただけで終わってしまった。飛行機で他の島へ旅行も出来るようなのだが、30分じゃその費用も貯まらない。「『たかとびぼう』は作ったの?」と次男。『たかとびぼう』なるものを作ると川を飛び越えてむこうへ行けるらしい。作ってみた。おい、早く教えてくれよ。なんだ、めちゃくちゃ楽しいじゃないか。川のむこうには花や木の実や魚や貝殻。お金が落ちてたり、化石が埋まってたり。

 キャッキャと言って遊んでたら、あっという間に30分。タイムアップ。行動範囲を広げると時間内に出来ることが自ずと散漫になってしまう。かといって自分のテントの周りでウロウロしててもなんも面白くない。斧を作って、近所の家をガンガン叩いて回ると「ガチーン! ガチーン!」と金属音がして気分は晴れるのだが、子どもの手前そんなことばかりしてると心配されてしまう。30分ルールを親の権限で緩くしてみようか……とも思うが、自分も含め歯止めが利かなくなるに違いない。

 明日は4カ月ぶりにリアルに飛行機に乗って『県境移動』で長崎独演会。「ぱぱみ」なら長崎でひと暴れするとこだろうが、私は大人しく日帰り。感染予防に万全を尽くして臨みたい。密を避けて、集まれ、お客さん。

週刊朝日  2020年7月17日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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