1990年代のロシアでは年間70倍もの物価上昇となった。ロシア政府は当時、貨幣の呼称単位を一定割合引き下げて新しい貨幣単位に改めるデノミ(デノミネーションの略)で、通貨価値を千分の1にした。1千万円を持っていた人の資産が一瞬で、たった1万円になってしまうようなものだ。アルゼンチンはこれまで何度も債務不履行(デフォルト)となり、ハイパーインフレを経験している。ブラジルは80年代後半から90年代前半にかけて一時、年間約25倍の物価上昇に見舞われた。

 第1次世界大戦後のドイツも、ハイパーインフレとなった。膨大な戦費に加え、支払い能力を超える巨額の賠償金なども背景にあった。急激なインフレで、例えばコーヒーを飲むのにリヤカーにいっぱいの紙幣が必要になり、飲んでいる間もインフレが進行していたという話も伝わっている。

 日本もひとごとではない。第2次世界大戦末期、戦費によって1944年の債務残高がGDP比で204%に達した。46年の卸売物価上昇率は約4.3倍。当時の政府は新円切り替えや預金封鎖、一定額以上の財産への財産税などを相次いで打ち出し、富裕層の資産をほぼ没収した。

 日本の債務残高をGDP比でみると、終戦直後よりも現在のほうがずっと悪い。

 元財務官僚で慶応義塾大学大学院の小幡績准教授は、こうした現状から「財政は必ず破綻します」と断言する。財政破綻は昔から言われてきたものの、国債を日銀が最終的に買い支えることで、それが先延ばしされてきたと解説する。

「財政再建は難しい。誰もやる気がありません」。国民は消費税をいやがり、コロナショックで何でも配ってほしいと求め、ばらまきばかりになっていることから、破綻は火を見るより明らかだとする。

 ただ、日本で懸念されているハイパーインフレについては、「世の中に誤解がある」。物価が上昇するというよりは、日本円の価値がなくなったとみて、誰も受け取りたがらない事態が予想されるという。為替市場で一時的に超円安になり、インフレに陥っていくというのだ。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2020年7月17日号より抜粋