池上:だから今、ヨーロッパやアメリカ在住の日本人がすごく嫌な思いをあちこちでしていますよね。

佐藤:人種主義というのは、第2次世界大戦で克服されて、その残滓(ざんし)が、アメリカの公民権運動でマーチン・ルーサー・キング牧師の活躍によって完全に過去のものになったというのが教科書的な記述ですよね。しかし、これは潜っていた、あるいは眠っていただけで、今回のコロナ禍によって頭をもたげた。しかし、この頭をもたげたというのも加速しただけですよね。トランプ大統領はすでに、そこに火をつけていました。

池上:彼は11月の大統領選での再選しか考えていない。これは黒人差別に対する反対運動ではなくて、極端な過激派が社会を混乱させようとしている、それを抑えようとしているのが俺なんだ、という話にすり替えて、自分の再選戦略に持っていこうとしているのですよね。

佐藤:しかも後押ししているのが、(米紙)ウォールストリート・ジャーナル。社説が力によってつぶせと言っているわけなんですよね。とんでもないことを白人警官はやったが、それに対する抗議活動は閾値(いきち)を超えていると。それによって結局被害を受けるのは、貧困層にいる人たちでしょと。だから、アメリカのエスタブリッシュされた人たち(既得権益層)は、そこのところは実はトランプ大統領とフレームが一緒なんですね。そうなると、ますますアメリカの分断が強くなりますよね。

池上:実は以前、オバマ大統領が2期目を目指す時に、イランとの関係が非常に悪化しました。その時、オバマ大統領はイラン核合意というのに持っていこうとするんだけど、当時は単なる不動産業者で民間人だったトランプ大統領が、「オバマはイランとの関係の悪化を利用して、イランに戦争をしかけて、それによって2期目の再選を確実にしようとしているんだ」とツイートしました。

 アメリカには、川を渡っている最中に馬を乗り換えるな、という格言があって、つまり、戦争をしている最中に大統領を代えるなよ、という一般的な考え方があるんです。その観点から、当時のトランプ氏はオバマ大統領を批判した。ということは、これから9月、10月にかけて、自分が選挙で負けそうだということになると、危機を外に作り出すことをやりかねないのがトランプ大統領だ、と私は警戒しています。

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