瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。『場所』で野間文芸賞。著書多数。『源氏物語』を現代語訳。2006年文化勲章。17年度朝日賞。
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。『場所』で野間文芸賞。著書多数。『源氏物語』を現代語訳。2006年文化勲章。17年度朝日賞。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。(写真=横尾忠則さん提供)
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。(写真=横尾忠則さん提供)

 半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。

【横尾忠則さんの写真はこちら】

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■横尾忠則「僕を素材に運命が努力すればいいじゃないか」

 セトウチさん

 この回ですでに44回目ですよ。病気にもならないで、元気に続けられてよかったですね。42回目だったか、セトウチさん物凄(ものすご)く元気でホッとしました。100歳間近の人の文章とは思えません。「コロナなんて、何じゃい! 負けるもんか!」。ああびっくりした。僕のコロナアートの批評などは美術関係者には書けない大衆の言葉で本質を突いた、しかも歴史観の上に立って、過去、現代の間に橋を架けた見事な文明批評的美術論になっていました。言葉だけがひとり歩きする多くの論者では100歳の経験と肉体から発した言葉にはかないません。この往復書簡の連載が始まって以来のパワーを感じました。コロナの第二波が起こっていますがセトウチさんの第二波からは希望と勇気が与えられます。

 今日、篠山紀信さんが来まして、この間、寂庵でセトウチさんの写真を撮ったけど、大変お元気だった、と聞いて、嬉(うれ)しくなりました。こっちも喘息(ぜんそく)だ、難聴だと言っておれません。100歳に負けるもんか、です。人間には守護霊とかがついているそーですが、そんな他力に頼っていると、思ったこと、したいことができません。だから「そんなもん、あっちへ行け!」と追い出してしまいました。

 ですから、これからの残った人生は運命におまかせです。運命に逆らってまでして、しんどいことはしたくないのです。守護霊を追い出したことと運命にまかせて生きることは矛盾しているように思われますが、違います。まかせるというのは勇気が要ります。運命に毒をもられるかも知れません。でも人間はなるようにしかなれないんです。だったら、運命を信用した方が楽です。逆らって、どん底に落ちる人もいます。まかせる勇気のなかった人です。

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