そういう意味から、「がんが治って何をするのですか」という質問をしたのだと思います。

 彼は私の質問を受け止めて、これまでの人生を振り返ったそうです。

「それまではビジネスの成功ばかりを考えていました。あとはゴルフばかりやって遊んでいましたが、もし命が続いたなら、少しは世の中の役に立つことをしたいと、そのとき、思いました」

 そして末期がんからの生還を果たした彼は様々な慈善活動を始めました。

「皆さんに喜ばれることがこんなにもうれしいとは思ってもいませんでした。今、がんになる前以上に、充実した毎日を送っています」

 彼はこのように自分の体験を締めくくりました。

 もう一つ先に希望を持つというのは、死ぬことについても言えると私は考えています。

 死は究極のゴールだと思う人が少なくないでしょうが、私はそう考えません。死んだあとにも、もう一つの世界があるのではないかと思うのです。それは、誰も証明してくれませんが、どうせわからないなら、そう思った方が希望を持てていいのです。

 死んだその先にはいったい、どのような世界があるのだろうか、先に逝った人とまた一杯やろうなどと考えれば楽しくなります。死ばかりを見つめすぎると、死が怖くなってしまうのです。是非、どんな場合も、もう一つ先の希望を見つけてください。

週刊朝日  2020年7月3日号

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら