久坂部羊さん(左)と篠田節子さん (撮影/写真部・東川哲也)
久坂部羊さん(左)と篠田節子さん (撮影/写真部・東川哲也)
【左】篠田節子(しのだ・せつこ)/1955年、東京都生まれ。90年「絹の変容」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。その後も、『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞ほか、数々の文学賞を受賞している。親の介護と自らのがん体験を書いた『介護のうしろから「がん」が来た!』が発売中 【右】久坂部羊(くさかべ・よう)/1955年、大阪府生まれ。外務省の医務官などを経て、2003年『廃用身』で作家デビュー。14年『悪医』で第3回日本医療小説大賞受賞。『破裂』『悪医』『老乱』『老父よ、帰れ』など著書多数。週刊朝日に連載した小説『生かさず、殺さず』が発売中(1870円・税込み)(撮影/写真部・東川哲也)
【左】篠田節子(しのだ・せつこ)/1955年、東京都生まれ。90年「絹の変容」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。その後も、『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞ほか、数々の文学賞を受賞している。親の介護と自らのがん体験を書いた『介護のうしろから「がん」が来た!』が発売中 【右】久坂部羊(くさかべ・よう)/1955年、大阪府生まれ。外務省の医務官などを経て、2003年『廃用身』で作家デビュー。14年『悪医』で第3回日本医療小説大賞受賞。『破裂』『悪医』『老乱』『老父よ、帰れ』など著書多数。週刊朝日に連載した小説『生かさず、殺さず』が発売中(1870円・税込み)(撮影/写真部・東川哲也)

 認知症介護現場のリアルを描いた本誌連載小説『生かさず、殺さず』の著者であり医師の久坂部羊さんと、直木賞作家で自らの介護体験を綴った著書も多い篠田節子さん。そんな2人が介護について語り合った。

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篠田:新型コロナウイルス感染が広がって、さまざまな施設で面会中止になっていますよね。うちも2月23日に病院からそうした電話を受けました。それまで1日置きに面会に行って汚れ物を持ち帰って、洗濯消毒といった作業があったのですが、それをしなくていいとわかったときの解放感っていったら! もう仕事がはかどること。それまで行けなかったところにも行けるようになったし。

久坂部:(笑)

篠田:でも、1カ月過ぎたら、さすがに心配になってきました。6月になって5分間だけ、病室の外で会えるようになったんですが、私の顔を見た途端、「おいしいものないの? 早く早く」って。

久坂部:きっとストレスがたまってたんですね。おいしいものを欲しがるってことは、元気な証拠じゃないですか。

篠田:カステラはひと口で食べ終わっちゃうからと思って、飴を持っていったんですが、嚥下が難しくなってきているから食べさせないでね、と看護師さんから釘をさされました。気管に入るおそれがあるので、現場がOKと言うわけがないですよね。

久坂部:おいしいものを食べる喜びを優先するか、誤嚥性肺炎の回避を優先するかのどちらかなんです。多くの人は、誤嚥性肺炎は嫌だけど、おいしいものを食べられないのも嫌と言いますが、これは困ります。本当はどちらでもいいと思うんです。

篠田:伯母は糖尿病で療養病棟に7年間入院して亡くなりましたが、年寄りにとって好きなものを口にできないかわりに長生きするってどんなものなんですか?

久坂部:どっちかしかないんです。好き放題食べて早死にするか、我慢して長生きするか。

篠田:『生かさず、殺さず』の中で、糖尿病で組織が壊死する話がありますが、あれと大福は関係ありますか?

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