篠田:私は付き添い中に、補助ベッドで眠っている間に母がベッドから下りて、センサーのブザーが鳴っちゃいまして、看護師さんから厳重注意がありました。「眠るなら拘束ベルトをかけて」って。

久坂部:看護師さんとしても、できれば拘束はしたくないんです。メディアは拘束を人権否定だと言いますが、ケガをさせられない現場としてはどうしたらいいのか。

篠田:手術の後なんかだと、命にかかわることがありますものね。

久坂部:そう。自分の置かれた立場を理解していないから、大事なチューブを抜いてしまったりする。

篠田:体験ありますよ。チューブ抜いちゃって電話がかかってきて、慌てて駆け付けたら看護師さんが床に這いつくばって探し物している。体の中に残しちゃったかもしれないからって。大変な仕事だと思いますよ。

久坂部:その話を聞いていたら、小説にもうひとネタ盛り込めたかもしれないですね(笑)。

篠田:久坂部さんの小説にも出てきますが、患者家族にはいろんな人がいますよね。介護に縁のなかった人とか、嫁いでしまった娘とか。それぞれの立場の人がいるから、現場は大変ですよね。

久坂部:そうですね。でも皆さん、純粋に親や家族が大事という思いで、病院を頼ってきている。困るのは病院への期待値が高すぎて、ケガでもさせたら「こっちはお金払って預けてるんだ。それでもプロか」って。

篠田:いわゆる“モンスター”ですか?

久坂部:モンスターと言っていいかどうかはわからないんですが、専門家も神じゃないですから、事故はゼロにできません。ご家族にもそれを前提としてわかっていただかないと。申し訳ないのですが、そのうえで心の準備をしていただき、期待値を下げてくれれば、現場も少しは楽になるんですけどね。

篠田:たまらないですね。家にいても事故が起きるし、むしろそちらのほうが多いのに。ところで、認知症になる人って、体のほうが丈夫ってことですかね。本来の寿命で亡くなっていれば、そんなにひどいことにはならないのにって思うことがあるんです。私の家系は曽祖母、祖母、伯母、母が認知症で、母は96歳、伯母は享年92。認知症以外の女性の親族は卵巣がんが多くて、そちらは認知症にならずに亡くなっている。つまり、がんを逃れ長生きした結果が認知症、という部分がある。

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