なぜ公式な場面になると、相変わらず世帯やら家族制度が顔を出すのか。日本国憲法第十三条だったと思うが、個人の尊厳がはっきりとうたわれているのに、実際には個の概念が根付いていないのだ。

 私にしたところが、区役所に書類を取りに行くと、世帯主はつれあいの名で、そのたびにいやな気分にさせられる。

 戸籍上、生まれながらの私の名前は存在しないことになって、選択的夫婦別姓は遅々として実現しない。

 給付金に世帯主の名がなぜ必要か。なぜ世帯主にしか振り込まれないのか。国民一人一人に十万円というからには世帯主はいらないのではないか。

 そうした細かいところから変えないと家族制度は変わらない。

 それでいて、特別定額給付金の振込予定日には「令和二年○月○日頃」とある。「頃」というまことにいいかげんな言葉が使われていることに思わず笑ってしまった。

週刊朝日  2020年7月3日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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